Takeshi Matsui Lab

研究内容 (Japanese)

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Research in Japanese

【美しい肌はどのようにできるのか?皮膚の適応進化から考える角層バリア形成メカニズムの解析】

 私達の美しい肌は、どのようにして作られるのでしょうか?

皮膚は人体の中での最大の臓器です。皮膚は外側から表皮・真皮・皮下組織からなり、表皮は「重層扁平上皮組織」と呼ばれる多層構造を持った上皮組織です。表皮は、主に基底層、有棘層、顆粒層、角層(角質層)からできています。

肌の表面にある皮膚表皮の最も外側にある角層は死んだ細胞層(約数層〜数十層)からなります。角層は、両生類(成体)・爬虫類・鳥類・哺乳類のような陸上脊椎動物のみが持っています。角層がバリアの役割を果たすことにより、陸上生活を営むことができています。

  地球と進化の歴史を遡ると、デボン紀後期(約3億6千万年前)に両生類が、 肺や四肢の進化と共に、皮膚表に角層を獲得することで、陸上進出が成し遂げられました。その後に出現した爬虫類には、より陸上での生育に適した強固でバリア能が発達した角層が獲得され、鳥類では羽を獲得しつつ柔らかく保湿能がない角層へと変化しました。2億3千万年前には、爬虫類型哺乳類から私たちの祖先である哺乳類が出現しましたが、毛や乳腺の獲得と共に、柔らかく保湿された角層が獲得されました。

 このように、生育環境変化と共に出現した様々な陸上脊椎動物は、体表面の角層を進化させ、新しい環境に適応してきたと考えられます。つまり、様々な陸上脊椎動物の角層の形成過程の中に、細胞の適応進化メカニズムを解く鍵が隠されており、私達哺乳類の美しい肌がどのように形成されてきたのか、されるのかを明らかにできる可能性があります。

 角層は、顆粒層細胞と呼ばれる生きた細胞が、特殊な細胞死を行い形成されます。進化の過程で、顆粒層細胞に、どのような細胞生物学的な変化が起きて、新たな角質層を形成する進化が起きてきたのかを調べることで、顆粒層細胞の適応進化メカニズムを明らかにできるかもしれません。

  私たちは、これまで生体内の顆粒層細胞の細胞死過程を、生きたマウスを用いたライブイメージングと分離した顆粒層細胞を用いて詳細に解析してきました(動画)。

その結果、長期細胞内Ca2+上昇と細胞内酸性化が順番に起きることを明らかにし、死細胞が新たな機能を獲得するという新しい細胞死概念「コルネオトーシス(Corneoptosis)」を提唱しました。
2021年 理化学研究所プレスリリース:皮膚表皮細胞の細胞死過程を解明-細胞内の酸性化が正常な角層形成に重要-
Matsui et al., A unique mode of keratinocyte death requires intracellular acidification PNAS 118:e2020722118, 2021
(Commentary in PNAS by Jessica L. Moorea and Prof. Valentina Greco.)

  一方で、新しい種の発生時には、核の中のゲノムDNAの変化が重要な要素となりますが、陸上脊椎動物ゲノムの半分以上を占めている転移因子(レトロトランスポゾン)が、角層の変化に与えた影響についても研究しています。

2011年に、私達が報告したレトロウイルス由来のプロテアーゼの機能解析結果は、ウイルス由来の配列が、哺乳類出現時の角層の保湿に関わったことを示唆しています。
2011年 東京医科歯科大学プレスリリース:皮膚顆粒層に特異的に発現する内在性レトロウイルス型アスパラギン酸プロテアーゼSASPaseが角質層水分量の調節を行う事を発見

日本語参考総説:「陸上脊椎動物の皮膚の適応進化と内在性レトロウイルス ウイルス 第 66 巻 第 1 号,pp.31-38,2016

 このように進化細胞生物学的な観点から、様々な解析技術を駆使して、顆粒層細胞の適応進化メカニズムを明らかにして、美しい肌がどのように形成されるのかを明らかにしていきます。

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2022年5月16日 東京保健医療専門職大学の佐々木博之博士らとの共同研究成果が掲載されました。従来は酢酸ウランという放射性物質を使わねばならないことが大きな問題でした。病理組織切片を一般的に染色することに用いられるマイヤーヘマトキシリンを電子顕微鏡試料切片の染色に用いることができることを示した報告です。従来よりも安価で安全な染色法の提案です。

Sasaki H, Arai H, Kikuchi E, Saito H, Seki K, Matsui T: Novel electron microscopic staining method using traditional dye, hematoxylin. Sci Rep. 12:7756, 2022.

日本語プレスリリース:新たな電⼦顕微鏡試料の染⾊法を開発–安全性、コスト、扱い易さなどに優れた⼿法として期待–

English Press Release: Development of a new staining method for electron microscope specimens –Expected to be a safe, cost-effective, and easy-to-use method–

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